銀座の新スポット“HINKA RINKA”を彩るパラリンアート~制作秘話編~

 今年3月31日、銀座 数寄屋橋交差点にオープンしたばかりの商業施設「東急プラザ銀座」。

その3階から5階の一角に、東急百貨店の新業態「HINKA RINKA」(ヒンカ リンカ)がある。「品格」と「凛」とした心を持ち、人生を楽しんで生きる大人の女性向けのセレクトショップは、様々なメディアで紹介され話題を呼んだ。

しかし、そのフロアのところどころを飾る、アート作品についてはあまり知られていない。

実は、障がいを抱えた女性アーティスト6名が、HINKA RINKAの開業に合わせて完成させたアート作品「パラリンアート」なのだ。 

東急百貨店が運営するHINKA RINKAで、障がい者アーティストとのコラボレーションを実現させた一般社団法人障がい者自立推進機構パラリンアート運営事務局 神成麻衣(かんなり まい)さんに話を伺った。

神成さんトリミング              コラボを手掛けた神成さん。事務所に飾られたアーティストの作品前で。

_パラリンアーティストの作品が、HINKA RINKAに採用された経緯を教えてください。

まず、一般社団法人障がい者自立支援推進機構では、障がい者の経済的支援と社会参加を目的に活動をしています。パラリンアートはその主な活動です。障がいを持つアーティストや作品の登録と管理を行い、利用したい企業や施設とのマッチングを行います。その利用料などを障がい者アーティストに報酬として還元し、経済的自立の手助けを行っています。

東急百貨店さんとは、店舗でのアート作品の利用が出来ないかを相談させて頂いておりました。ご担当者の方も、パラリンアートアーティストの作品をとても気に入ってくださっていて、何かできないかと試行錯誤してくださいました。

HINKA RINKAでのコラボレーションは、その中で決まりました。

_コラボレーションが決まった時はどのように感じましたか。

大変光栄な機会を頂いたと思う一方で、「本当に良いんですか?」という気持ちもありました。

実は、今回の仕事は事務局としてもアーティストにとっても初めてのことだらけ。作家さんの多くは、普段は施設などに通所をする傍ら、ご自宅で自由に作品制作をしていらっしゃいます。事務局では、その作品を登録し、企業の希望とマッチングさせることが殆どです。

HINKA RINKAでの作品提供は、既に展示場所も作品のテーマも決まっており、そのオーダーに沿った作品を制作するというもの。しかも、一番大きい壁面は縦3m・横9mという巨大なキャンパス。そのような条件の中で、本当に納期に間に合わせることは出来るだろうかと、不安も感じました。

でも、銀座の一等地という、またとないチャンスです。もしここに、障がい者アーティストの作品を飾ることができたら、当事者にとっても励みになるし、障がいを持っていても、こういうことが出来るという実績にもなります。

なにより、きっと素敵な作品になるに違いないと信じていました。

 

一方で、百貨店さんも障がいをもつアーティストとここまで大きな取り組みをすることは初めて。 そこで、まずは大きな壁画ができるかどうかの実験をすることになりました。

場所は、東京メトロ銀座線渋谷駅から、東急百貨店東急東横店にかけての階段の踊り場で、縦2m横6mにもなります。制作してもらったのは、HINKA RINKAでの参加アーティストでもある志方弥公(しかた みさと)さんです。

志方さん                           HINKA RINKAで制作中の志方さん。

志方さんは聴覚障害を持ちながらも、出来ないことはないと考え、何にでも積極的にチャレンジしている女性アーティストです。銀座線終電後から始発まで1日2時間半の5日間かけて制作、完成しました。

この経験から、私たちも百貨店も自信を持つことができ、HINKA RINKAでのプロジェクトを本格的にスタートしました。

_アーティストの選定はどのように行ったのですか?

展示場所によるイメージは予め決まっていましたので、それに基づき事務局で30名の候補者をあげました。そこから、百貨店のデザイナーさんがイメージに沿って10名に絞り込み、本人達に打診を行いました。

最終的に6名が参加することとなりました。HINKA RINKAのターゲットである20代~60代の女性に共通して、アーティストも20~50代の女性に参加してもらいました。

_実際の作品はどのように決めたのでしょうか。

どの展示場所にどの作家、というのは元々登録されている作品の作風から決めていました。場所のテーマやオーダーに沿って、まずは下絵を出して頂きデザイナーさんが選んでいきました。作家によって、すぐに決まった方もいれば、積極的に様々な下絵をいくつも出した方もいます。

でも、オーダーと作家さんの作風が必ずしも一致するとは限りませんでした。

例えば、3階レジカウンターの壁面に椿を描いたANNAさん。彼女は、とてもカラフルな絵が特徴です。でも、最初のオーダーはモノトーンの花でした。

下絵でモノトーンの花の絵を出してくれるのですが、デザイナーさんもなんだかしっくりこない。途中からカラーを使ってよいことにしました。それで出てきたのが、実際に使われたカラフルな椿の花です。デザイナーさんも、フロアのテーマと合っていると好評で、採用となりました。

 

ANNAさん1             ANNAさんは初めて、今回の作品で筆を使った制作に挑戦

_アーティストが障がいを抱えているという点で、何か配慮をしたことはありますか?

百貨店側からは、制作時間や彼女たちが障がいを抱えていることは事前に現場スタッフに伝えて頂きました。ただ、特別に何かお願いしたということはありません。

配慮と言っても6名それぞれですので、一概にこう、とは言えません。

例えば、5階レジカウンターに繊細なボールペン画を描いた浅野さん。「自然」をテーマに、本当に緻密な作品を手掛けています。やってみたいという前向きな気持ちの中にも、本当に出来るだろうかと不安を抱えており、辞めたいと仰ることもありました。

そこで、とにかく不安にならないようにコミュニケーションをとろうと、毎日のようにメールをしました。作品のことだけではなく、その日にあったことなど他愛もない話をするうちに、浅野さんも気持ちが乗ってきて、30枚もの作品を仕上げてくれました。実際にはその内の9作品がタイルとなり使用されています。

浅野さん作品2            浅野さんの作品。タイルに焼き付けた下地を制作。すべてボールペン画

 

また、3階レジカウンターに鉛筆画を描いた城岸さんは足に障害があり長時間の作業が困難です。そのため、壁画のばらせるところは自宅で制作をしてもらい、レジカウンターの一枚板の部分だけ現場で制作をしてもらいました。

城岸さん.JPG             城岸さんの制作風景。広い塗りつぶし部分もすべて鉛筆

_慣れない工事現場で制作だったと思いますが、雰囲気や環境はいかがでしたか?

6名のうち、現場で制作をしたのは志方さん、城岸さん、ANNAさん、キクチさんの4名です。

現場の方には、制作時間を伝えるくらいで、彼女達への特別な配慮などはお願いしていませんでした。それにも関わらず、作業員用のトイレが遠いからと、より近い場所に手配してくださったり、制作中に気軽に声をかけてくださったりと、和やかな雰囲気の中で制作を進められました。

障がい者が現場に入ることに、百貨店側や施工会社の方は決して慣れているというわけではありません。でも日々現場を共にし同じ売り場を作り上げる中で、自然と仲間になっていたのだと思います。彼女たちもチームの一員としての一体感を感じていたようです。

キクチさん1.JPG               防火扉で制作をするキクチさん

作品完成後、アーティストたちはこのような場を与えてくれたことへの感謝の手紙を送っています。すると、HINKA RINKAスタッフさんから6名の作家ひとりずつに、お客様の反応などや感謝の気持ちなどを集めた寄せ書きを頂きました。

_今回のコラボレーションを終えて、いかがでしたか?

まず、事務局として、新たなパラリンアートの形を提示することが出来たのではないかと思います。実際に、今回の作品を見た京都の企業から声が掛かり、社長室の壁画制作の依頼も来ています。

作家にとっても、大きな達成感を感じ自信につながる機会でした。「またやりたい」と前向きな声も頂いています。多くの人と接する中で、話すことが以前よりもできるようになったという方もいました。

集合写真                                       左から、城岸さん、志方さん、キクチさん、ANNAさん

_最後に、これから作品を見る方へ、鑑賞のポイントを教えてください。

この作品達は、空間にとても良く馴染んでいて、お買い物の邪魔をしないのが意図ではあります。 でも、ぜひ近くでじっくりと見て頂きたいです。

例えば志方さんの絵は立体的に見えると思いますが、アクリル絵の具を何層も塗り重ねていて触るとぼこぼこしています。キクチさんの大輪の花も、よく見ると鉛筆の線が残っていて、現場で書いた臨場感が感じられると思います。

そういった、作品ひとつひとつの力強さや息吹のようなものも、ぜひ作品を通してみて頂けたらと思います。

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筆者も、実際に作品を見に行った際には、店員さんに聞かなければわからないほど空間に馴染んでいるものもありました。

楽しい時間を過ごすお買い物空間も、多様な人たちがお客様の笑顔を想像しながら一緒に作り上げていると思うと、少し嬉しくなりますね。                            6名の作家の作品は、「作品制作編」にて紹介をしております。合わせてご覧ください。(記事へ)

HINKA RINKA website

パラリンアート運営事務局 website

東急プラザ銀座 website

============                                       ※障がいをもつアーティスト・アート作品のことを「アール・ブリュット」「エイブルアート」などと呼称する場合もありますが、今回はパラリンアート運営事務局の呼び名であるパラリンアーティスト・パラリンアートと表記をしております。

 

 

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